大阪地方裁判所 昭和25年(行)2号 判決
原告 小泉房次郎 外六名
被告 大阪南税務署長
一、主 文
原告小泉房次郎、同田中賢造、同仲田英明、同芦田喜一郎、同横山正一、同中村勇の各請求は何れもこれを棄却する。
被告の決定した原告藤塚恒雄の昭和二十三年の所得金額一八一、五〇〇円中一一〇、九五九円を超える部分はこれを取消す。
原告藤塚恒雄のその余の請求はこれを棄却する。
訴訟費用中、原告小泉、田中、仲田、芦田、横山、中村と被告との間に生じた分は右原告等の負担とし、原告藤塚と被告との間に生じた分はこれを三分し、その二を被告の負担とし、その一を原告の負担とする。
二、事 実
原告の主張並に立証
(一)請求の趣旨
被告が原告等の昭和二十三年度所得金額を別表その一の最下段、(誤謬訂正額欄)記載の金額の如く決定した処分はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求める。
(二) 請求の原因
原告等は昭和二十三年度分所得金額として別表その一の申告額欄に記載の如く確定申告を為し、それぞれ所定の期限内に、これに相当する所得税を納付したところ、昭和二十四年二月から三月にかけて被告は別表その一の更正決定額欄に記載の如く、右申告額の二倍乃至六倍に当る更正決定をなしたので原告等はこれを不服として審査の請求をした結果、被告は同年十一月から十二月にかけて、別表その一最下段に記載の如く、決定した。しかしながら、右は尚原告等の申告額を遙に上廻る金額であつて、到底これに、承服することはできない。
被告が原告等の申告の所得金額を間違つているとして更正するには、必要な調査を遂げた上でなすべきことは所得税法第四十六条の規定から言つても当然なことであつて、凡そ個人の所得は一般経済界の状況、地理的条件等の客観的事情だけでなく、個人の信用、経験、技能、及び資金関係等の主観的条件に左右されるところが大きいから漠然たる間接の推計によるべきでなく、各納税義務者個々について実際の所得を具体的に調査しなければ、その所得を把握することはできない筈であるに拘らず、被告は第一回の更正をなす際はおろか、原告等の審査請求によりこれが訂正を為すに当つてすら、殆ど調査らしい調査をしていない。僅に昭和二十五年に入つてから、二三の原告の取引先等について調査をしたらしい形跡があるだけである。恐らくは、政府又は大阪国税局からの天降り的割当に基き、各業種別に徴収目標額を決定し、机上において個人別税額を割当てたのが事実であろう。殊に本件原告等を含む生活擁護同盟員三十八名のみが他の業者に比べて特に過大な決定がなされたと認められるのは、同盟員の名において、税務署長の不正を摘発した事に対する報復と思われること並にこの決定に関与した南税務署員がその後収賄罪の嫌疑で逮捕拘留された事実に鑑み更正決定の根拠が如何に信用し難いものかゞ分る。
各原告の営業並に生活状態は左記の通りであり、その家族数、資産等の状態は別表その二の通りであつて、従つて実際の所得金額は確定申告書記載の通りである。
(1) 原告小泉は、
ノート製本の賃仕事をしているが業界極度の不振と金詰りに加へ、昭和二十三年度は電気事情が特に悪く然も註文少くて、従業員を遊ばせることが多かつたので収入が少く、使用人に対する工賃さえ支払いかね、家族九人の生活を支えるために売り食いをしている有様であつた。
被告の主張する様な販売業は営んでおらず、丸誠紙製品株式会社に対する取引というのは訴外横山正雄の依頼により、原告の名義を以てしたのであつて、原告の所得に関係がない。又銀行預金が一四、〇〇〇円余増加しているというのも訴外山田文雄から預つたものが一〇、〇〇〇円含まれているので、実際は四、〇〇〇円余の増加に過ぎない。
(2) 原告田中賢造は、
時計、眼鏡修理業を営んでいるが、購売力の減退の結果、営業成績極めて不良、加うるに家族六人を養わねばならぬので、戦災を免れた家具類を売払うことによつて辛うじて糊口をうるほしている状態である。
被告は、原告の預金が昭和二十三年中に四〇、七九一円五三銭増加しているのは生活にそれだけの余剰があつたからであると主張するが、右預金の増加は、終戦前から所有していた銀行預金、郵便貯金等の封鎖が解消されたのと、支那事変公債を現金化して預金したもので、昭和二十三年中の営業収入には関係がないものである。
(3) 原告仲田英明は、
時計、眼鏡修理業で、親譲りの営業ではあるが自身の経験は僅かに一年余りしかなく然も身体が不具であるため、活動が不自由で、一家の生計を支えるだけの所得すら挙げることができず無尽会社から十万円、叔父から五万円借り受けて生活費に当てゝおり、その利子をも支払うことができない状態である。
被告は、昭和二十三年中に原告が乾義孝から仕入れた原材料だけでも六三、八〇〇円に上ると主張するが乾から買入れた商品代金のうち、約二〇、〇〇〇円はその後一年余りの間支払ができなかつたのである。又土地家屋を買つていると主張しているが、これは前所有者の懇請により止むなく買受けたもので、一時に全額支払う資力がないので、月賦弁済の方法により、それも、叔父坂本末義から商品で約一五、〇〇〇円乃至一六、〇〇〇円を借り、亡父の遺産である金庫を約一〇、〇〇〇円で、店の飾にかけてあつた標準大時計を一五、〇〇〇円で手放す等の措置により、右家屋買入代金を捻出した程で同年中の営業収益により支払つたものではない。
(4) 原告芦田喜一郎は、
昭和二十三年三月扇骨加工業を始めたが、赤字続きであつたから、同年十一月廃業し、新に小間物商を始めたが開業早々のこととて営業不振で借金に追われている状態である。
被告は、原告が小間物開業するに当りその資金として、八、〇〇〇円支出していると主張するが開業資金は大部分借入によるものである。又昭和二十三年に家屋を買入れているというが、売買の交際は昭和二十一年末頃から始まり二十二年に買受けたのであつて、二十三年の所得には関係がない。又貸金の点については親しい同業者であつた訴外前田正三郎から一家心中せねばならぬ等と度々窮状を訴えて頼まれたのでやむなく、無理算段の果、三回に八、〇〇〇円を貸与したので、最後に貸したのは昭和二十四年の末頃であつた。原告は利息の請求はしなかつたが前田が進んで一割の支払を約し、昭和二十五年中頃までに元金の外二、〇〇〇円の利息を受取つたが、何れにしてもこの貸金は二十三年中の所得とは関係のない事柄である。
(5) 原告横山正一は、
印材の行商を営んでいるが、営業の不振の上に、妻ユキエが長らく病臥した後二十四年一月に死亡し、十三歳を頭に三児を擁し薬代の残も払うことができない様な悲惨な生活をしている。
医療費としての支出額は、法規の末に捉われず当然所得から控除さるべき性質のものである生命を維持するための必要費は事実上の経費以上に必要なものであるからである。現行法は明文で右の趣旨を定めているが、旧法当時でも、実際には、各税務署では明らかな医療費は事実上収入額から控除するのが通例の取扱であつた、殊に本件の場合は妻の病気によるものであつて、内助の責任を分担する妻の健康は夫の健康と共に所得にとつて最大の源泉であるのに、妻の病気により、この源泉を失うばかりでなく、その治療費及び看病による営業活動の不如意のため原告の受けた損害は甚大である。
(6) 原告中村勇は、
時計修理部品の販売を業とする者であるが、営業の経験は一年未満で、殆ど無資本で始めたので規模が小さく、商品の回転率の悪いことは、時計販売業者と同様敗戦後の著しい現象で、利益の歩金も平均二〇%乃至二五%であり、昭和二十二年度の所得額すら、完納しえず、現在月賦で辛うじて納めている状態である。
被告は昭和二十三年中に原告が仕入れた商品は九六四、一五二円に上ると主張するが、その内七割以上は原告のいわゆる「顔」を利用した単なる取次であつてこれについては三%乃至五%の手数料を得たに留まるものである。
(7) 原告藤塚恒雄は、
金物商であるが、金物は終戦後逐年増産され来つたため、昭和二十三年には生産過剰と購買力不足で売行悪く、一部には値下りをみたものもあり、卸売業者の口銭は大体一割程度に過ぎないものである。
尚被告は、原告、小泉、田中、仲田、芦田、横山について、その所得を生計費及び諸税等の支出総額を以て直ちに所得であるとしているが、必ずしもそうでないことは常識上明らかである。被告は現行所得税法第四十六条の二、第三項の規定を援用して、消費の面よりその所得を推計することも適法であると主張するが右条文はその様な趣旨の規定ではなく、昭和二十五年の所得税法改正の際青色申告制度を設けたので、同条第一項では、青色申告者に対しては、その帳簿書類を調査して、その結果所得計算に誤りがあると認められる場合に限り更正決定をなすことができる旨を規定したのを受けて、青色申告者でない者に対しては、必ずしも帳簿書類を調査した上で更正決定することを要せず、帳簿書類が信憑するに足らないときは、その他の資料により所得を把握することを得る旨を規定したに過ぎない。消費を以て直接に課税の標準とすることは勿論、消費面から所得を推計して課税の基礎とすることも、その旨を明かに定めた特別の規定をまつて始めて可能なことである。外国の立法例においても我が所得税法第四十六条の二、第三項の規定に類似する課税標準見積りに関する規定があるようであるが、これも課税の標準を確認することが不可能であり、一定の要件の備つている場合に、厳格な制限の下に課税標準を見積ることができることを定めたものであつて所得の推定を許したものと解すべき余地は存しない。我が所得税法第四十六条の二、第三項の規定を以て、消費面よりする所得の推計を許したものと解釈することは、広きに失するばかりでなく、消費課税に対する各国税制の態度が極めて消極的であつて、たゞ僅に厳格な制限の許に、ドイツ、スイスにおいて、これを採用しているのが世界の実情であるにも拘らず、何等明文のない我が税法において、漫然かゝる解釈をとることは無謀である。
いわゆる「消費者価格調査報告書」により各人の所得を推定することは不可能である、少くとも不当である。即ち、
(イ) 統計の基礎となつている各世帯の報告した数字が正確であることが保証されない。
(ロ) 無条件に抽出した世帯を調査の対象としたのであるとしても、その数が全体の世帯数に比し、小さすぎるから、それを以て、戦後の混乱した国民生活の実態を確実に把握したものとは言えない。
(ハ) 消費は必ずしも所得から支出されていない、我国の敗戦後の実情としては、消費を所得によつて賄いえたものはむしろ少いであろう。
(ニ) 平均生活者とはどの程度の生活を営むものを指すのか、換言すれば原告等が、これに当るか否かは判断する資料がない。
右の理由によりいわゆる消費者価格調査報告書を以つてしては人の消費すら推定することは困難で、況んやその人の所得まで推計することは到底不可能である。もし被告の主張する様に、反証ない限り、この種のずさんな統計によつて人の生計及び所得額が推認され、納税が強制されることを社会通念が是認するとすれば、同様にして一定の賃金ベースに縛られている一般公務員の大部分が反証のない限り、背任、横領又は汚職によつて、その生計を維持していることを推定されることも是認されなければならないであろう。もし又被告の主張する様な広範囲の見積り課税が認められるものと解し、これを争う者に反証の責任が課せられるものとすれば、税務行政が私生活深く侵入することゝなり程度の差こそあれ、各人各家庭にある私生活上の秘密の公表を迫るものであつて、税法強行のためにはいかなる犠牲をも顧みないという税法至上主義の結果を招き犯罪容疑者にすら供述拒否権や黙否権が認められている今日、善良な納税者にその秘密の公開を強制し、消費の出所を立証しなければ、一方的に課税し、これが強制徴収を迫ることゝなり税の重圧が刑罰にも匹敵するほどの物質上並に精神上の負担と観念されている今日の時代においては、基本的人権を侵害するが如き感を抱かしめるもので明に不当である。
(三) (証拠省略)
被告の主張並に立証
(一) 請求の趣旨に対する申立
原告等の請求はこれを棄却する、訴訟費用は原告等の負担とするとの判決を求める。
(二) 請求の原因に対する答弁
原告等の主張事実中、原告等が昭和二十三年度分所得金額として、原告等主張の如き確定申告をし右金額に相当する所得税を納付したこと、被告が原告等の右確定申告に対して原告等主張の如き更正決定をしたことこれに対し原告等より審査の請求がなされ、被告は別表その一の最下段に記載の金額に訂正をしたこと、原告等がその主張の如き事業を営んでいることは認めるが、その余の事実は否認する、被告が別表その一の最下段に記載の金額の如くに更正所得金額を訂正したのは、前の更正決定額に誤謬を発見して自発的に訂正したものに外ならず、審査の決定とは別個のものである。審査の決定は大阪国税局長の職権に属する事項で、同局長の決定はまだ行われていない。
被告は原告等の昭和二十三年度所得額を別表その一の最下段の如き金額に決定するについては、実地調査、探聞調査等与えられた条件の下におけるあらゆる手段を以て原告等の所得金額を調査認定したものである。
即ち、
(1) 原告小泉、田中、芦田、横山、仲田の各所得について、
同人等が昭和二十三年中に支払つた生計費、所得税、市民税その他支出の総額は、同人等の年間所得金額を示すものに外ならない。即ち同人等はその営んでいる事業で相当の所得をえたからこそ、これらの支出をすることができたのである。総理府統計局が行つている消費者価格調査、いわゆるc・p・sに基く昭和二十三年中の大阪市における一人当り一ケ月の平均生計費は二、一七一円六六銭であるから、反証なき限り原告等も、これと同額の生計費を要したものと言うべく、これを基礎に同人等の生計費を計算し、その他の支出と合計すると、その金額は別表その四の如き金額になり、この金額より低額に認定された更正所得金額が違法であるとは絶対に考えられない。
のみならず、
(イ) 原告小泉については、
同人は、原告主張の如きノート製本業の外、販売業をも営んでいるものであつて、取引先丸誠紙製品株式会社より商品代として二六四、七〇九円五〇銭工賃代として四〇、一〇〇円五〇銭合計三〇四、八一〇円の支払を受けており、(乙第十三号証参照)、この金額だけでも、同原告が審査請求書に添付提出した収支計算書(乙第十二号証)に記載している年間収支金額二九三、八〇七円を超過している。
同原告はその使用人に対し工賃も支払いかねると言つているが被告に毎月、使用人員、支給金額、徴収税額等を記載した徴収高計算書を提出している事実から、毎月工賃の支払をしていたことは明白である。
又同原告は大阪銀行上町支店に預金を有するが、昭和二十二年十二月末の預金残高が二九、五九五円二〇銭であつたのに比し、昭和二十三年十二日末は四四、〇〇九円と一四、四一四円を増加しているが、これは相当額の所得を得て、その総所得から生計費、公課(事業税、自転車税を除く)その他営業上の必要経費を控除した余剰残高を示すものに外ならない。
(ロ) 原告田中については、
同人も昭和二十三年中に預金が四〇、七九一円五三銭増加しているがこの増加は所得によつて賄われたこと、同人の生活程度が中位であつたことを示すものである。
(ハ) 原告仲田については、
同原告本人の供述によれば、同原告はその原材料の大部分を未知の行商人から仕入れ、知合の乾義孝よりの仕入は僅少の由であるが、右乾よりは昭和二十三年中に六三、八〇〇円余仕入れているから、(乙第十九号証)同年中の仕入総額は乾よりの仕入の五倍を下らぬと認めて差支ないであろう、又同年中に土地家屋を三五、〇〇〇円で買受けている。同原告は昭和二十三年に叔父から五〇、〇〇〇円借りたと主張するがかゝる事実はなく、昭和二十五年に四、〇〇〇円借りたことがあるに過ぎない。
(ニ) 原告芦田については、
昭和二十三年三月一日延十三坪八合六勺の二階建を坪当り一、二〇〇円の割合で買受けているし、昭和二十四年ではあるが八、〇〇〇円を月一割の利息をとつて他人に貸しているがこれらは中等の生活をして余剰のあつた証拠であるし、同原告本人の供述によれば、扇骨加工による収入金額中青風堂よりの註文が全体の一割五分であるというのであるが、青風堂より原告に支払つた金額は三二、四八〇円余であるからこれより年間総売上高を算定すれば二一六、〇〇〇円となりこれに原告本人の供述によるも利益率九割を乗ずれば扇骨加工による純利益は一九四、〇〇〇円余となる。
又小間物については、原告の審査請求書添付書類(乙第四十七号証)に記載してある年間売上高一五八、〇〇〇円に原告本人の供述による利益率、即ち仕入原価に対する三割を乗ずれば、その純利益は四〇、〇〇〇円となる。
この外に米、麦、芋等の闇売による利益は原告本人の供述によると昭和二十二年の利益一三〇、〇〇〇円の六割位であるとのことであるからこれにより算定すれば、七八、〇〇〇円の雑収入があつた訳である。
以上を合計すれば、三一二、〇〇〇円の所得があつたことは明白である。
(ホ) 原告横山については、
同人は、使用人を使用している事実(乙第五十号証参照)によりその事業は相当の規模で行われていたと推定される。
尚、同原告は、妻の医療費を所得から控除すべき旨主張するが、昭和二十五年四月に改正された現行所得税法にはその様な規定があるが、これ以前の税法には医療費控除の規定はなかつたのである。
(2) 原告中村の所得について、
同人の昭和二十三年中の商品仕入額は九六四、一五二円で(乙第二十号証参照)同原告本人の供述によれば、同年初と同年末の手持在庫商品量は同一であつたというのであるから、仕入量と同量が販売されたものと認められ、同原告本人供述による利益率(仕入の二割乃至二割五分、売上の二割乃至二割一、二分)をそのまゝ採用しても二〇〇、〇〇〇円以上の純利益があつたことは確実であるからそれより低く認定した一四〇、〇〇〇円の更正所得金額は違法ではない。
(3) 原告藤塚の所得について、
同人が提出した所得更正決定に対する不服申立事由書(乙第八号証)によれば同人の年間売上総額は一、二一〇、〇〇〇円であり金物商は通常収入金額に対して、一五%の所得を挙げるものであるから、右売上額に、この利率を乗ずればその所得金額は一八一、五〇〇円となるから右更正所得金額は違法ではない。
原告は被告が所得認定を実額調査によらず単なる推計に基ずいて行うのは違法であると主張するが、一般社会通念上是認せられる基礎に立つての推計による所得認定を違法とする理由はない。勿論所得金額は収入金額から、必要経費を控除した金額であるから、その認定については、いわゆる実額調査の方法により、その収入金額と必要経費とを明にして、所得金額を算出するのが、最も理想的であることは言うまでもない。けれどもこの様な理想的課税が行われるには、納税者の所得内容の詐らない申告、収税官吏の質問その他の調査に対する誠実な応答、取引に関する伝票、帳簿、その他の整備、経済の動きが闇にかくれていないことという様な社会的条件が必要である。もしこの様な条件の備らない場合に、(これが社会の現状であり、終戦後の我国は特に顕著である。)右の様な理想的方法による以外に課税をなしえぬとするならば、一方には国民の負担の均衡を破り、他方には国家財政の崩壊を来たすことになる。尤もそれだからとて収税官吏の恣意的な課税が行われてよいということにはならない。こゝにおいて収税官吏は納税者の「財産の価格若しくは債務の金額の増減、収入若しくは支出の状況又は事業の規模」等(所得税法第四十六条の二、第三項)によつて所得金額を推計せざるを得ないのであるが、それは収入金額と必要経費を一応論外とし、たゞその結果生ずる所得の流れ方を把握して、これから所得金額を推計するところに意義があるのであつて、この把握推計の過程が一般社会通念の是認するものである限り、この方法による所得認定を違法とすべき理由はないのである。右所得税法第四十六条の二、第三項は昭和二十五年四月改正に係るものであるが、もとより当然の事理を規定したもので、所得税法改正の前後において右の理論に差異のある筈はない。(証拠省略)
三、理 由
原告等が昭和二十三年度の所得金額として、別表その一の申告額欄に記載の如く、確定申告をしたこと、これに対し、被告は同表の更正決定額欄に記載の如く右所得金額を更正したこと、これに対し原告は審査の請求をなし、被告はその後別表その一の最下段に記載する金額に先の更正決定を変更したことは当事者間に争がない。
(1) 原告小泉房次郎の所得
真正に作成された文書であることにつき争のない乙第二号証によれば、昭和二十三年の大阪市における一ケ月の平均生計費は一人当り二、一七一円六六銭であることが認められ、方式及び趣旨より真正に作成された公文書と推定される乙第十号証、真正に作成された文書であることにつき争のない乙第十四号証、証人小野喜久の証言により真正に作成された文書と認められる乙第十五号証を総合すれば原告小泉はその営業であるノート製本業のために昭和二十三年一月から六月までは使用人二名を八月以降は三名を雇傭していたこと、同人等に対する給料として、一人当り、同年一月頃は税引手取二、一四〇円余であつたが、その後漸次増加して、十一月頃は三、七三三円余、年間の平均三、四二八円余を支給していること、同人等の給料に対する所得税として源泉徴収した分は其の月又は翌月位に原告より税務署に納付していること、同原告は丸誠紙製品株式会社との取引において昭和二十三年一年間における商品仕入代金として、二六四、七〇九円五〇銭製本加工賃として、四〇、一〇〇円五〇銭以上合計三〇四、八一〇円の支払を受けていること、同原告の株式会社大阪銀行上町支店における預金が昭和二十二年末に比し、二十三年末においては一四、四一四円三四銭の増加をみていること、以上の事実より、原告は、その営業により相当の収益を挙げていたこと、従つて、同原告の家庭の生活程度は少くとも前述の大阪市における一人当りの月平均生計費二、一七一円六六銭程度の生活水準にはあつたものと認めることができる。そうすると、昭和二十三年当時における同原告の家族は証人小泉マキノの証言によれば、原告本人を含めて九人であつたのであるから、一ケ月一人当りの生活費を二、一七〇円として計算しても年間の原告一家の生計費は二三四、三六〇円(イ)を要した訳であり、真正に作成された文書であることにつき争のない乙第三、四号証によれば、同原告が昭和二十三年中に納付した所得税は四一、八八四円六〇銭(ロ)、市民税は三二三円二〇銭(ハ)であるから、以上、(イ)(ロ)(ハ)の金額を合計すれば、二七六、五六七円八〇銭を支出しているものと認められる。証人小泉マキノの証言によれば衣類等を売つて生活費に充てたと言つているが、その金額は年間一〇、〇〇〇円位であつたというのであるから、右金額から一〇、〇〇〇円を差引くも尚二六六、〇〇〇円余の金額は、その年の収入によつて賄つたものと言うべく、昭和二十三年における同原告の所得は少くとも、被告主張の二五〇、〇〇〇円あつたことはこれを認めることができる。
原告は、丸誠紙製品株式会社に対する取引というのは、横山正雄と同会社との取引で、原告は只名義を貸したに過ぎない旨主張し、原告本人は(第一回の尋問において)右会社との取引金額中九六、七六五円以外は、横山の取引である旨供述しているが、同原告が右横山正雄なる者の住所をすら知つていないということ方式及び趣旨より真正に作成された公文書と推定される乙第四十号証により認めうる如く昭和二十三年当時は用紙統制のため、製本等は勿論製本加工等も組合加入を必要としたのに組合員中に横山政夫なるもの存在しない事実とを考え合せるとき、右原告本人の供述は未だ信用するに足らず、又銀行預金の増加は内一〇、〇〇〇円は山田文雄から預つたものであると主張し、原告本人は(第一回の尋問において)山田から「自分が持つていても仕方がないから」というので三万円預つたことがありその一部を預金に入れた旨供述しているが、社会一般がインフレにあえいでいた当時において持つていても仕方がないからと言つて三万円を他人に預けるということは常識上考えられないことであるし、方式及び趣旨より真正に作成された公文書と推定される乙第四十一号証によれば、山田文雄なる者は他人に貸金をする程の資力のある者ではないことが認められるので、これらの事実を考え合せると、前記原告本人の供述は信用できない。
真正に作成された文書であることにつき争のない乙第十二号証(同原告が被告に提出した収支計算書)によれば昭和二十三年における同原告の総収入金額二九三、八〇七円必要経費一九八、九一六円一八銭差引所得金額九四、二九〇円八二銭と記載され、原告本人もまた(第一回尋問において)同趣旨の供述をしているが、もし仮に原告の所得がその主張通り九四、二九〇円八二銭であるとすればこれより、先に認定した同年中に納付した所得税四一、八八四円六〇銭、市民税三二三円二〇銭を差引くとき残五二、〇八三円〇二銭を以て、一家九人は生活を立てゝいたことになるが、そうすると一ケ月一人当りの生計費四八〇円ということになるが、かゝることは到底信用できず、その他前段認定の事実を覆すに足るべき証拠はない。
(2) 原告田中賢造の所得
同原告が時計修理販売業を営んでいることは当事者間に争なく、証人、小野喜久の証言により真正に作成された文書と認められる乙第十号証、第二十七号証と同原告本人の供述(但し、後記採用しない部分を除く)とを総合すれば、昭和二十三年における総収入金額は二四〇、〇〇〇円、内売上はその六分で一四四、〇〇〇円、修理はその四分で九六、〇〇〇円であること、その利益歩金は必要経費を控除して純利益が通常の場合時計修理については収入に対する六〇%、販売については三〇%であること、(尚同原告は、メガネの販売をも営んでいること同原告本人の供述により認められその利益歩金は売上金の三五%を供述しているので必要経費を控除した純利益率は時計の販売と同様三〇%と認められる。)従つて、この利率を先の金額に乗ずれば、修理における純利益四三、二〇〇円、販売における純利益五七、六〇〇円この両者を合計した一〇〇、八〇〇円の所得のあつたことを認めることができる。同原告本人は、利益歩合は必要経費を控除する前のいわゆる荒利益において、販売については三割、修理については四割乃至五割である旨供述しているが同原告の場合に特にその利益率が普通一般の場合より低いとは、これを認めるに足るべき証拠ないのみならず同原告本人供述によれば同人は昭和九年その父が死亡する以前から前記営業を父と共にしており、尤も今次戦争に出征した間の空白時代はあるが、可成りの経験年数を有する者であることが認められるので、利益率についての同原告の前記供述部分は採用し難い。
同原告は、昭和二十三年の所得金額は六五、〇〇〇円である旨主張し、同原告本人もまた同趣旨の供述をしているが、もし然りとすれば、真正に作成された文書であることにつき争のない乙第三、四号証により同原告が昭和二十三年中に納付した所得税は一三、一七八円九〇銭、市民税は八〇六円であることが認められるので、前記六五、〇〇〇円よりこれ等納税額を差引くとき、五一、〇一五円一〇銭を以て、同原告一家七人が生計を立てゝいたことになるが(同原告の家族が七人であることは当事者間に争がない)、そうすると一ケ月一人当りの生計費六〇七円三五銭ということになり前記原告小泉の理由中に引用した昭和二十三年の大阪市における一ケ月一人当りの生計費が二、一七一円六六銭であることに鑑み信用し難く他に前段認定の事実を覆すに足るべき証拠はない。
(3) 原告仲田英明の所得
同人が時計修理販売業を営んでいることは当事者間に争がない。真正に作成された文書であることにつき争のない乙第三、四号証によれば、同人が昭和二十三年に納付した所得税は一三、八〇一円市民税は一、二一二円であることが認められ、真正に作成された文書であることにつき争のない乙第二十九号証の一、二によれば同原告は、昭和二十三年八月二日、その居住する家屋をその所有者より三五、〇〇〇円にて買受け、同年中に右売買代金の内二五、〇〇〇円を支払つていることを認めることができる。被告の主張する原告の昭和二十三年における所得金額九六、〇〇〇円より前記納税額一五、〇一三円支払済の家屋売買代金二五、〇〇〇円を差引けば、五五、九八七円となるが、これを同原告一家の生計費として同原告の家族数四人を以て除し、(右家族数が四人であることは当事者間に争がない)更に十二ケ月を以て除するとき一ケ月一人当りの生計費は一、一六六円余となる。原告本人は、同年は食糧事情が悪かつたので愛知県の妻の実家(農家)より米等を無償で貰い受けていた旨供述しているが、貰い受けた行先が愛知県で可成りの距離にあることを考えれば、それ程の量とも考えられぬし、原告小泉の理由中に引用した大阪市における一ケ月一人当りの平均生計費が二、一七一円六六銭であることに鑑みれば、原告仲田の場合において、少くとも前記一、一六六円はかゝつたであろうことは推察に難くない。このことより逆算して、同原告の所得金額は、少くとも被告主張の九六、〇〇〇円はあつたものと認めることができる。
同原告は無尽会社から十万円、叔父から五万円借りて生活費に当てた旨主張するが、これを認めるに足る証拠がない。却つて、真正に作成された文書であることにつき争のない乙第三十六号証によれば原告の叔父坂本末義が昭和二十五年二月株式会社大道無尽より一〇〇、〇〇〇円借りた際、内四〇、〇〇〇円を原告に貸したことがある以外には、金銭を貸したことはないことを認めることができる。尤も原告本人は昭和二十三年二月頃右坂本から三〇、〇〇〇円借りた旨供述しているが、前記証拠と対比するとき信用し難い又、同原告は、家屋購入の資金は金庫を一〇、〇〇〇円、標準大時計を一五、〇〇〇円で売却した代金等を以つて当てた旨主張するが、これを認めるに足る証拠がない。
(4) 原告芦田喜一郎の所得
方式並に趣旨により真正に作成された公文書と推定される乙第四十六号証の前半分の部分(被告清風堂扇子店宛照会状の部分)ならびにその記載より右照会に対する回答文として真正に作成されたものと認められる後半の部分と原告本人の供述とを総合すれば原告の扇骨加工による収入金額中、清風堂よりの註文が全体の一割五分であつたこと、清風堂より原告に支払つた金額は三二、四八二円九〇銭であること、従つて年間の扇骨加工による総収入は二一六、〇〇〇円余であること、扇骨加工による利益率は九割であること、従つて前記収入金額に右利率を乗ずれば、扇骨加工による純利益は一九四、〇〇〇円余(イ)であることが認められる。
真正に作成された文書であることにつき争のない乙第四十七号証(原告の審査請求書並に添付書類)並に原告本人の供述を総合すれば、小間物の年間売上高は一五八、五三〇円であること、利益率は仕入原価に対し三割であること、右利率を以て計算すれば、純利益は三六、〇〇〇円余(ロ)であることが認められる。
原告本人の供述によれば、米、麦、芋等の買出しによる利益が、昭和二十三年はその前年の利益一三〇、〇〇〇円の六割位即ち、七八、〇〇〇円(ハ)位あつたことを認めることができる。
以上(イ)(ロ)(ハ)の金額を合計すれば昭和二十三年の所得は三〇八、〇〇〇円あつたことを認めることができる。
(5) 原告横山正一の所得
真正に作成された文書であることにつき争のない乙第三、第四号証、第三十四号証に原告本人の供述を総合すれば、昭和二十三年中に納付した所得税は四九、三一六円四〇銭、市民税は一二〇円であること、同年中に家屋を七、五〇〇円で買受けたこと、妻の医療費として一二、七九〇円を支払つていること、以上を合計すれば六九、七二六円四〇銭を支出していることが認められる。被告の主張する原告の所得金額一二〇、〇〇〇円より右金額を差引いた五〇、二七三円六〇銭を以て、当時の原告の家族四人が生計を立てゝいたとすれば、(当時の家族が四人であつたことは原告本人の供述によりこれを認める)一ケ月一人当りの生活費は一、〇四七円三六銭となるが、原告小泉の理由中に引用せる如く大阪市における一ケ月一人当りの平均生計費は二、一七一円六六銭であることに鑑みれば、原告横山の家庭においても、少くとも右一、〇四七円三六銭は要したのであろうことは、推察に難くないからこのことより逆算して、昭和二十三年の所得は少くとも被告主張の一二〇、〇〇〇円はあつたものと認めることができる。
同原告本人の供述により同年は二月よりその妻が、病気で床についたため、その看病と子供の世話で思う様に印材の行商に出かけることができず、従つて収入は前年に比し減少したことは認めうるけれども、もし仮りに昭和二十三年の所得を原告主張通り、四八、九〇〇円とすれば、先に認定の同年中に支払つた税金、家屋購入費、医療費だけでも既に右所得額を上廻る六九、七二六円であつて、生計費は一銭もないことになる。この点につき原告本人は前年には昭和二十三年の二三倍の収入があつたので、そのずれで借金せずにやつて行けた旨供述しているが、前年の収入が如何程あつたか明らかでないし、未だ前段の認定を覆すに足る証拠となし難く、その他右認定を覆するに足る証拠はない。
尚原告は医療費は所得から控除すべき旨主張するが、この点については被告の主張する通り医療費控除の規定の置かれたのは、昭和二十五年四月の所得税法改正にかゝり、昭和二十三年当時の所得税法には、その様な規定はなかつたのであるから、事情気の毒ではあるが如何ともし難い。
(6) 原告中村勇の所得
証人小野喜久の証言により真正に作成された文書と認められる乙第二十号証、並に原告本人の供述を総合すれば、昭和二十三年初と同年末を比較して手持在庫商品量は同一であつたこと、従つて仕入量と同量が販売されたこと、右一年間に仕入れた商品の量は八三四、六〇三円二〇銭であること、(被告は、九六四、一五二円であると主張し、右乙第二十号証の取引状況調の一覧表の合計額は右主張と同一の金額が記載されているが、右の内株式会社松田定商店との取引高三七、五一〇円二〇銭とあるは三九、九四二円二〇銭の誤、大和精機株式会社との取引額一一七、五一一円とあるは八三、五九一円の誤であること右両商店より被告宛提出した売原簿の抄本及び売上明細表に記載の金額を計算すれば明かであり、又、前記取引状況調一覧表中の株式会社岡本織蔵商店との取引三五、一四〇円、酒井精機株式会社との取引六二、九二一円とあるも、これを認めるに足る取引帳簿等の記載がない。)利益率は仕入の二割乃至二割五分であること、従つて、仮りに二割として計算しても、一六六、九〇〇円余の所得があつたことを認めることができる。
原告は、同人が仕入れた商品の内七割以上は原告のいわゆる「顔」を利用した単なる取次で、従つてこれについては、三%乃至五%の手数料をえたに止まると主張するが、これを認めるに足る証拠なく、他に右認定の事実を覆すに足るべき証拠はない。
(7) 原告藤塚恒雄の所得
被告は、同原告が提出した所得更正決定に対する不服申立事由書(乙第八号証)によれば年間売上総額一、二一〇、〇〇〇円であるから、これに金物商の通常の利益率一五%を乗ずれば一八一、五〇〇円の所得があつたと主張し、成程真正に作成された文書であることにつき争のない乙第八号証には売上の合計欄の処に一、二一〇、〇〇〇円と記載されているが、原告本人の供述、並に右乙第八号証中の経費及び純益の欄に記載の数字とを対比すれば右売上欄の記載は数字の記載に一桁誤り、一二一、〇〇〇円の積りで記載したものであることが認められるので、右乙号証を根拠として、一八一、五〇〇円の所得があつたとの被告の主張は認められない。
然しながら、真正に作成された文書であることにつき争のない乙第三、四号証によれば同原告が昭和二十三年中に納付した所得税は三一、二四四円三〇銭市民税は一、五九五円であることが認められる。原告本人の供述によれば、同人は住吉に二階建の住宅に居住し、右とは別の処に階下二畳と二坪の土間、二階三畳と四畳半の店舗専用の家を賃借していること、原告の営業である建築金物商は昭和九年より独立して始め、戦争中徴用で二年及び戦災後二十二年七月まで休業していたが、可成りの経験年数を有するものであることが認められるので、これらの事実より、同原告の家庭は原告小泉の理由に引用した大阪市における昭和二十三年の一ケ月一人当りの平均生計費二、一七一円六六銭程度の生活水準はあつたものと推察することができる。原告本人の供述によれば、当時原告の家族は三名であつたことを認められるので、一ケ月一人当りの生計費を二、一七〇円の割で計算すれば、一年間原告一家の生計費は七八、一二〇円は要したものと認められる。これに前記納税額所得税三一、二四四円三〇銭市民税一、五九五円を加えると一一〇、九五九円(銭位は切捨る)の支出あつたものというべく、従つて特別の事情のない限り、右支出と少くとも同一の収入はあつたものと認められる。
同原告は、その所得金額を七〇、〇〇〇円と主張し前記乙第八号証には同趣旨の記載があり、原告本人また右主張に副う供述をしているけれども、今仮りに所得金額を七〇、〇〇〇円としてみるとこれより前記納税額を差引けば、三七、一六一円となり、これを以て三人が生活していたことになるがそうすると、一人当り一ケ月の生計費は、一〇三二円となり大阪市における平均生計費の半分以下ということになるがかゝることは前記認定の如き原告の家庭、事業についての経験年数等を考慮して信用し難く、他に前段認定事実を覆すに足るべき証拠はない。
以上各原告を通じて、原告等は、被告が原告等の申告を更正するには実額調査に基いてなすべきで、間接の推計によるべきでなく殊に消費面により、所得を推計することは、特別の規定のない以上違法である旨主張するが、この点については被告の主張する通りいわゆる実額調査に基いて所得金額を算出することが最も理想的であることは言うをまたないところであるけれども、これには取引に関する伝票、帳簿の整備、収税官吏の質問、調査に対する納税者の誠実な応答等の条件が備つて始めて出来ることで、これらの条件の具らない場合には、(而して本件原告等の場合、正確なる取引帳簿の記入がなされていないことは各原告本人の供述により認められるところである)間接事実より所得を推計することもやむをえないことでそれが経験法則に従つて行われる以上、違法というべきでなく、消費面より所得を推計することもまた、その一つの場合と言うべきであろう。
よつて、原告小泉、田中、仲田、芦田、横山、中村の各請求はいずれもその理由がないからこれを棄却すべく、原告藤塚の請求は、被告決定の所得金額中前記認定の金額を超える部分を取消す限度において理由があるからこれを認容するが、その余の部分は理由がないから棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十二条を適用し、主文の通り判決する。
(裁判官 乾久治 中村三郎 安井章)